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これは集団形成の対捕食者説を支持するものです。夜活動する種は、あまり目立つことがありませんから、捕食者にやられる確率も低くなります。一方昼間に活動する種はさまざまな捕食者に狙われやすく、大きな集団をつくって対処する必要があったのでしょう。 では、集団は大きければ大きいほどいいのでしょうか。そんなことはありません。あまり大きくなると、こんどは損失が生じてきます。一人あたりの分け前が減るのです。有限の食物が集中して存在しているときには、それを食べる人数が増えれば増えるほど一人あたりの取り分け減ります。取り分を増やそうとすると、新たな食物を探さなければなりませんが、それには移動のために千不ルギーや時間を使わなければなりません。つまり、捕食者対策の利益と採食競合の損失の釣り合いがとれたところで、集団の大きさは決まっているといえます。 集団が大きくなると採食の面で損失が増えるといいましたが、実はこれは集団がひとつしかない場合のことです。隣接する集団がいて、同じ食物を巡って争っている場合はどうでしょうか。集団間の争いの場合、単純に考えて数が多い方が優位になります。ということは、数が多い方が採食にとって有利に働くこともあるのです。捕食者対策と集団内の採食競合に加えて、集団間の採食競合という要因も考えなければなりません。これら三つの要因の強弱は、それぞれの環境によって異なってきます。捕食者があまりいないような地域では集まることの利益は少なくなりますし、集団の密度が高いところでは集団間の採食競合は激しくなるでしょう。↑集団サイズを推測する 進化的適応環境においてヒトが形成していた集団とは、どれくらいの大きさだったのでしょうか。もちろん、そんなものは化石のような物的証拠としては残りません。しかし、種間比較という方法を用いれば、ある程度の推測が可能になるのです。 霊長類は他の哺乳類に比べて大きな脳をもっています。もちろん体が大きくなると脳もそれにあわせて大きくなりますから、これは体重に比較して大きいという意味です。霊長類はそれぞれの種ごとにさまざまな大きさの群れを形成していますが、その群れの大きさと脳の大きさをグラフに表すと、大きな群れをつくる種ほど脳の相対的なサイズが大きくなっていることを、神経生理学者の滓口俊之と霊長類学者の宮藤浩子が発見しました。 脳が大きいということは、単純に考えると知能が高いことを意味します。実際、他の分類群よりも相対的に脳が大きい霊長類は、記憶や学習能力が優れています。脳はそう簡単に大きく進化するものではありません。脳は非常に精密な、子不ルギーを食う器官であり、脳を維持するには非常にコストがかかることについては、すでに前の章で述べました。 ここにおいて、自然淘汰を考えるときには必ず利益と損失のバランスを考慮しなければならないという話をしました。このことは脳の進化にもあてはまります。脳を維持していくのにはかなりの損失が伴うにもかかわらず、霊長類においてこれだけ脳が大きくなっており、さらに大きな群れをつくる種ほど大きな脳をもつということには、それに見合っただけの利益があったはずです。 その利益とは、集団の中でうまくたちまわることだったと考えられています。集団というのはただ個体が集まっているだけではありません。近いところにいるわけですから、その成員のあいかにはさまざまな社会的交渉が生まれてきます。相手の出方を見極めて対立したり和解したりということをしなければならないわけですが、そのためには強力な情報処理能力が必要とされます。群れが大きくなればそれだけ情報処理は複雑になっていきますから、そのために大きな脳が必要とされたというわけです。これを社会的知能仮説といいます。↑一五〇人のための脳?脳のなかでも高度な情報処理を行っているのは大脳新皮質と呼ばれる、外側の部分です。この  095部分の脳全体に対する割合をみても、やはり群れが大きいほど割合が大きくなっていることが、進化心理学者のロビンーダンバーによって明らかにされています。 ダンパーはさらに、ここから現代人の集団サイズを推測しています。霊長類について集団サイズと大脳新皮質の割合の一般的な関係を導くことができます。これを回帰直線といいますが、わたしたちも霊長類の一種なので、この関係にあてはめることができます。すると、現代人、すなわちホモーサピエンスがもっている大脳新皮質の割合に見合った集団サイズは、約一五〇人であることが分かりました。つまり、わたしたちの脳は一五〇人の集団のなかでうまくふるまうためにできているということになります。 そんなに少ないのか、という感じを受ける人もいることでしょう。わたしたちは現代社会において非常に大きな集団を形成しています。例えばいまわたしがいる名古屋市には約二〇〇万人が住んでいます。しかし、全員が顔見知りというわけではありません。農耕牧畜は人口密度を高くし、交通や通信の発達は社会組織を大きくしてきました。それでも、わたしたちが実際に顔を認識し、何らかのかたちで交渉をもっている人数はごく限られています。 ダンパーは、公的管理機構が必要とされるビジネス組織の下限が二〇〇人程度であること、近代軍の中隊の規模がI〇〇人から二〇〇人程度であることなどを例に挙げて、現代社会でも人間がある程度お互いを認識してまとまりを保てるのはやはり一五〇人前後なのであるという主張をしています。農耕牧畜以降の約一万年のあいたに、わたしたちの食物や生活習慣は進化が追いつかないほど急激に変化してきましたが、それは社会集団にもいえることなのです。↑いかに繁殖するか さて、遺伝子を次世代に残すためにもうひとつ重要なのは性です。わたしたち人間はホモーサピエンスというひとつの種ですが、さらに大きくふたつのタイプに分かれています。ひとつは男性、もうひとつは女性です。わたしたちはセックスを介して次の世代をつくっていく生き物です。いかにうまく食料を得、危険を避けて生き延びたとしても、異性を見つけて性交をしなければ遺伝子は残っていきません。 雄と雌が性交を介して次世代をつくるというのはどういうことでしょうか。わたしたちのDNAはヒストンというタンパク質にからまった状態で、染色体というかたまりをつくっています。細胞の核と呼ばれる器官のなかにこの染色体が二本ひと組になって、四六本二三組存在していますが、この染色体の半分は父親から、半分は母親から受け継いだものです。性とは、雄と雌が遺伝子を半分ずつ出しあって新しい組み合わせをつくるシステムなのです。ではちょうど半分ずつ遺伝子を出しあう個体がなぜ雄と雌という異なった性質をもっているのでしょうか。 半分の遺伝子をもった細胞を、配偶子と呼びます。この配偶子が合わさることによって次世代の細胞ができるわけです。雄と雌の何か異なっているのかというと、精子という配1 子をもって  098いるのが雄で、卵子という配偶子をもっているのが雌であるということができます。

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